ビヤ樽との問答

ある男の話をしよう。小学校の帰り道、彼は友達とゲームセンターにいた。バレーをしていたせいか肩幅も広く筋肉質だったが、顔には少年特有のあどけなさがあらわれていた(と思う)。少年は、自分たちを値踏みするように見つめる怪しい視線に気がついた。すると、さっきからこちらを見ていた中南米系男二人組のうち、ビヤ樽のような腹をした男が近寄ってきてこう言った。「この漢字の読み方教えてくれへん?難しゅうていかんわー」
ビヤ樽の意外に流暢な日本語に驚きながらも、少年は何の疑いももたずに読み方を教えてあげた。ついでに、いかにもさりげなく、といった様子で肩や胸を触りながらこうも言った。「君、いい体してるね〜。中学生?」そして堰を切ったかのようにこう畳み掛けてきた。漢字の読み方を教えてくれて、感謝している。本当に感謝しているので、君にお礼がしたい。ちょうど自分はマッサージ師だし、マッサージをしてあげたいのだけど、君だけにすると他の子が不公平に思うかもしれない。だからトイレへ行こう。
少年は汗をかいていた。しばし、「ここでいいです」「駄目だ、トイレで」「ここで!」「トイレで!」という押し問答が続いた。友達はゲームに夢中である。よく分からないが、なんだかマズい。マズいが、両脇を大の大人に挟まれては逃げるすべもない。トイレへ連れ込まれた。案の定男たちの手際は良く、てきぱきとパンツを剥いでいき、ついには下着に手を伸ばしだしたが、少年は暴漢に襲われた処女よろしくそこを死守した。ビヤ樽は股間周辺をさすりながら「だんだん気持ちよくなるからね」という言葉を繰り返した。最後には握らんばかりの勢いになった。「もう勘弁してください」彼が泣きだすと、ビヤ樽は心から残念そうに「そっか〜まだダメか…」と言った。まだってなんだ。少年は泣きながら帰った。

少年は高校生になった。部活帰りに歩いていると、前方から太った中南米系のオッサンが近づいてきた。話を聞くと、道に迷ったので案内をしてくれないかとのことだった。そしてこう言った。「兄ちゃん、いい体してるね〜。大学生?」